3人が本棚に入れています
本棚に追加
桜が散った後、時を待たずして若緑の葉が芽吹くのをご存知であろうか。薄桃色と薄緑のコントラストに季節の移り変わりの早さを感じることがある。
「上野城まで行かないか?」ツーリング仲間の武が言った。私のバイクは250ccのアメリカン。顎より少し下の位置でハンドルを握り、シートにどっしりと構えて座る。彼はバイクの限定解除免許を取得して、買ったばかりの大型バイクを乗りこなしたくて仕方がないのだ。
前を走る彼のバイクの背中に頼もしさを感じながら上野城に向かう。トンネルを抜けると右にカーブしていることに気付く。一瞬ハッとしてハンドルを傾ける。アメリカンバイクは体を傾けて方向転換をすることが少し難しい。
履き心地の悪いバイクブーツで石畳の階段を上る。遠くで見ていた白壁のお城が黒の瓦屋根とともに近づいてくる。広場に出た。三本の桜が程よい距離感で立っている。桜にしては少し背が高いのではないだろうか。
桜の木の下で記念撮影をすることになった。桜とお城の位置の関係でカメラのアングルが決まらない。私はポーズをとっているのだが武はなかなかチーズを言わない。頬に何かが触れた。桜の花びらだ。落ち行く花びらに視線を落とす。すぐさま視線を上げると視界が花びらの海になっている。風が吹いたのだ。差し込む光と相まってなんという美しさだろう。
シャッターチャンス。そう思ったのは私だけで、武は桜の花びらと戯れている。
最初のコメントを投稿しよう!