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疲れた。私は月を眺めながらその場に座り込む。
どれほど歩いただろう。私は一年ぶりにまたこの地へ戻って来た。
今は深夜だから誰もここへは来ないだろうと私はマスクをそっと外す。
私は五分ほど体を休ませた。そして月明りに照らされた桜の木に向かってゆっくりと歩き出す。
大きな広場にぽつんと咲いている綺麗な一本桜。
もうこの桜を八百年程見ているけれど、全く変わらない。
そして私も。私は桜の木の下の水溜まりに映る自分の顔を見て、そう思った。
この桜を見ると、あの頃のことが鮮明に蘇るのだ。
そう、あの切り株のあたりに屋敷があって、春になると縁側であの人とよく桜を眺めていた。
あの人はもう居ないけれど、この桜はこの場所に永遠に残るの。
あの人と共にずっと。そして私たちの思い出も。
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