1人が本棚に入れています
本棚に追加
区役所の近くまでやって来て私は異様な光景を目にした。
大勢の人々が警察に囲まれながら、列を作って旗を持ったり、ボードを持ったりして歩いている。これはデモ行進というものだろう。
私はこの目で実際に見るのは初めてだった。
ボードには桜の絵が描かれていて、「桜の木を守ろう」の文字。そうか。ここに居る人達は皆、私と同じ事を思っているのね。
例え理由は違えど、思いは一緒。私もその列に並び、声を上げて区役所に訴え始めた。
一時間くらい経つと、デモが終わったのか皆ぞろぞろと帰って行く。
気付けば私一人になっていた。自分たちの思いは伝わったのだろうか。
私はそれが気になって、職員に尋ねようと区役所の中に入った。
私は歩きながら帽子を深く被り直すと、職員らしき人に話しかけた。
「桜の木は保護されることになりましたか。」
「桜・・・?あぁ、あの広場の。残念ながら私達にはどうすることもできませんよ。もう
決まったことなんです。」
「そんな・・・。あんなに大勢の人が訴えたのに何もしてくれないのですか?」
「私に言われても困ります。もうあの件は諦めた方がいいですよ。」
私は職員の立ち去ろうとする腕を掴む。
「待ってください。あの桜には大事な、大事な思い出があるのです・・・っ。お願いします。何でもしますから、あの桜だけはどうか・・・。」
「は、離してください!ちょっと、そこの警備員さん!この人、つまみ出して!」
私は警備員二人に取り押さえられて、そのまま外へと運ばれる。
私は必死に抵抗するも虚しく、二人の警備員に投げ出された。
何も言わずこちらを睨み付ける二人。私は邪魔者なのだろう。
私は立ち上がると、膝を払ってその場を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!