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夜の櫻に蔭はなく
櫻の樹の下には屍体が埋まっている。
これは信じていいことだよ、と、ある文豪は言った。
積んだ画集の上に檸檬を置きたくなる気持ち、なんてものは僕にはわからないけれど、同じ人が書いたというこの一文に限っては、その通りだと感じることが多々ある。
だって、そうだろう。
世の中には時々、理不尽ともいえるほどの美しさを放つものがある。
そしてそれが、なんの代償もなくただそこに『在る』というのは、僕にとっては信じられないことなのだ。
まだ微かに肌寒い春の夜、キャンパスの端に咲く桜を一人見上げている『彼女』を目にしたとき、そんな、日頃何とはなしに考えて頭の隅にしまったようなことをふと、僕は思い出した。
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