トラブル

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美智はコーヒーを飲みながら料理を作る。卵焼きに塩鮭。それから、冷蔵庫から漬物なんかを適当に取り出して弁当箱に詰めた。 炊飯器のふたを開けると白い湯気がパッと広がって消える。ご飯は母親が昨夜のうちに準備していたものだ。小さな弁当を一つとおにぎりを一つ作り、洗面所で顔を洗う。 鏡に映るスッピンの顔には疲れが滲んでいた。化粧の乗りが悪いのは疲れのためか、年齢的なものの影響なのか、もはや分からない。この顔を見て父親が消沈したのは分かるような気がした。数年前は「早朝デートか?」とからかってきたものだが。 「ガンバレ、美智」 鏡に映った自分に喝を入れて会社に向かう。早朝出勤のメリットは、車の渋滞がなくてストレスを感じないことだ。美智が運転する車は、ほとんど信号に止められることなく15分で会社に着いた。時刻は6時30分。駐車場にはすでに20台ほどの車が並んでいた。 社員通用口のロックは開いている。長い廊下を経理課の部屋に向かう途中、工務課や設計課が入っている部屋には人の気配があったが、経理課のある部屋は無人だった。
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