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真っ青な空の下の野原はピンク色のコスモスや黄色のセイタカアワダチソウで色づき、白色を濃くしたススキは風に揺れる。街の四方を取り巻く山々も淡く色付き始めて人々の目を楽しませる。秋涼爽快、10月はそんな季節だ。
NOMURA建設の社員の気持ちも緩みがちで、経理課に回る書類の不備も増えた。外注工事代の支払申請書に捺印の漏れを見つけた佐久間美智は、建築1課長の梁川保を訪ねて判子を押してもらった。
「ありがとうございます」
美智が頭を下げた時、背後から大きな声がした。
「You‘re fired!」
「え?」
クビだと言われた美智の目が点になる。それからゆっくりと、悪いことなどしていないのに、と疑問が湧いた。
声の主は工事部門を担当する専務の福島博明。まもなく60歳になる生え抜きだ。昨年から社員を叱る時に“You‘re fired”と好んで使うようになった。アメリカ大統領がそう言ってメディアの注目を集めていたことに便乗したのだ。冗談のような言い回しながら“クビだ”という強烈な叱責の言葉が気に入ったものらしい。
美智は、現場監督や総務課長の三井庄司がそう叱られている場面は何度か見ていたが、自分が言われたのは初めてだった。
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