片思い

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美智が固まっていると、「いや、みっちゃんじゃない。梁川だ」と、白髪をオールバックに整えた福島の眼が優しく笑った。 「検収印を漏らすなど監督失格だ。工事代の支払いが遅れたら下請け業者はどうなると思う」 叱られる梁川も、そんなことは言われるまでもなく分かっているはずだ。それでも「すみません」と素直に謝るのは、福島を信頼しているからだろう。 「経理課も忙しいのだ。足を運ばせるような真似をするな。みっちゃんも自分で来ずに、ミスをした人間を呼びつけたらいい」 福島はそう言うが、他部署の管理職を呼びつけるような真似をいち社員の美智ができるはずがなかった。「ありがとうございます」と福島の気持ちだけを受け取ってその場を離れた。
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