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ジリジリジリ……。午前5時に美智の目覚まし時計がけたたましく鳴る。高校受験の際に買ってもらって依頼、大切にしているものだ。
美智は、「ファー」と欠伸をしながらもぞもぞとベッドを抜け出してカーテンを開ける。日の出の時刻にはまだ間があり、外は薄暗かった。
パジャマのまま階下に降りると「おはよう」と父親の祐介の声がする。年金暮らしの祐介はリビングテーブルに届いたばかりの新聞を広げていた。低血圧の母親の智子は、午前6時30分までは床を出ない。
「今日も早いんだな」
祐介はチラリと美智の姿を見ただけで、すぐに新聞の文字に視線を移した。
悠々自適に暮らす父親にとって、心配の種は美智が結婚しないことだ。その娘が色気のないパジャマ姿で降りてくるのが気に入らないのだと、美智は分かっている。
「仕事がないよりいいでしょ」
減らず口を叩いてキッチンに立つとコーヒーをドリップし、会社に持って行くポットと二つのコーヒーカップに入れる。
コーヒーカップの一つを父親の前に置くと、「サンキュー」と礼がある。ありがとうではなくサンキューなのは、シャイな祐介が照れているからだ。
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