トラブル

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美智はパソコンの電源を入れ、ポットとおにぎりを机に並べる。イヤフォンを耳につけて「さて……」と昨日の音声ファイルを確認したが、早朝から盗聴した音声を聞くのは後ろめたく気分が良いものではなかった。 プルルルルル……、総務課の机の上でけたたましく鳴る電子音は代表番号の電話だ。代表電話は、設計や現場監督の邪魔にならないように総務課と営業課にしかつながらないようになっている。 時刻は7時30分を少し回ったところだった。 「早朝から、なんだろう……」 総務課まで走って受話器を取ると、『バカヤロウ!』と男の怒鳴り声がした。 「エッ……」 間違い電話だろうと思ったが、相手の気迫に参ってしまい、それを尋ねる言葉が出ない。 『バカヤロウ、早朝から、なんだ!』 受話器の男は繰り返した。 「あのう……、こちらNOMURA建設ですが……」恐る恐る告げる。 『そんなことは分かってる!』 間違い電話ではないと分かると、怒鳴られても少し落ち着いた。 「申し訳ありません。ご用件は」 改めて尋ねると近所の工事現場で既に工事が始まっていて騒音がひどいという。 『事前説明では、8時半までは工事をしないという約束だったぞ』 「申し訳ありません……」 どんな約束になっているのかは分からないが、謝るしかなかった。
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