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その日のNOMURA建設は、職人の転落事故のことでざわついていた。高所からの転落事故は労働災害の中でも重大事故とされ、元請け会社にもペナルティーが科せられるから当然だった。
朝一番に飛び出して行った三井は昼前に病院から帰ってきて、職人の命に別状はないと報告した。職人は4階から落ちたものの隣接した駐車場の屋根に落ちてバウンドしたために、怪我は打撲だけで済んだらしい。
職人の怪我が想像以上に軽かったことで会社内には落ち着きが戻ったが、事故があった事実が無くなるわけではない。役員たちは夫々の担当部署に安全管理の充実を指導し、現場監督は担当する現場を回って安全設備の設置状況を確認して回らなければならなかった。
「木村さん、来ないですね」
毎日のように菓子を持ってくる木村が顔を見せないので、さすがの皐月も気落ちしたように見えた。
「木村さんの現場だからね。今頃は、対応に追われているでしょ」
容子が物知り顔に言ったが、どんな対応が必要なのかを知っているはずはなかった。美智だって熟知しているわけではない。
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