トラブル

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監査役の片桐瑞穂(かたぎりみずほ)の音声ファイルは2時間ほど前にアップされたばかりのものだった。希美が社員の状況を報告している。 『サービス残業が横行しているようです。早朝出勤で帳尻を合わせたり、仕事を自宅に持ち帰ったりするケースも多いようです』 『労働者自身が勝手にそうしているのでしょ。私が動くほどのことでもないわね』瑞穂が応じる。 『管理職がそれを推進しているのも間違いありません。コンプライアンス上、どうでしょうか……』 『どこにでもあることよ』 『監査役がおられた銀行でもそうですか?』 『もちろん。24時間、365日、働いたものよ。そんなことより、今日の事故の方が問題じゃなくって?』 希美が瑞穂のスパイのようなことをしていると知ったのは、2カ月前に瑞穂が社長の愛人の存在を疑ってあぶり出そうとした時だ。やはり音声ファイルで希美と瑞穂の会話を耳にした。それ以来、経理課の状況や会計の詳細が監査役に筒抜けになるだろうと覚悟していた。そうしたスパイ行為を見て見ぬふりをしていたのは、経理課にとって希美が貴重な戦力だからだ。
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