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美智がベッドを抜け出し、寝不足の重い頭を抱えてリビングに下りた時には母親の智子がキッチンに立っていた。
「なんだ、寝不足か……」
顔を合わせるとすぐに祐介に言われ、そんなひどい顔をしているのかと驚いた。
「顔色が悪いわよ。たまには会社を休んだら」
智子も調理の手を止めた。
「今日は休めないの」と応えてから、そう言わせたのは会社だろうか、それとも木村だろうかと考えた。
休めないわけではないのだ。自分が休んだところで経理課の仕事が少し滞るだけで、会社が傾くわけではない。自分の代わりに経理を務めることができる人間など、世の中には沢山いるのだ。むしろ自分がいない方が、責任を感じた容子や皐月が経理マンとして早く成長するかもしれない。
あれこれと考えながら母親の隣に立って弁当を作り、母親が作ってくれた食事をとった。
「ガンバレ、美智」
洗面所の鏡の中の自分は土色の顔をしていて、励ましてみても力は出ない。
出社したのは普段より遅かったが、それでも定時よりは40分ほど早く着いた。社屋に入るなり会社全体がざわついている気配を感じ、昨日の転落事故に何か急展開があったのかもしれないと不安を膨らませた。
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