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2人が楽しそうに話していると、外から戻った容子が木村の背後に立った。
「You‘re fired」
「お、おぉー」
太い声を作って脅かす容子に、狼狽えた木村が腰を崩して振り返った。
「なんだぁ、野村課長じゃないか。専務の真似なんかして脅かすなよ」
「木村課長。あまり頻繁に来ると、ストーカーだと思われちゃいますよ」
「経費の精算をするのにストーカーはないだろう。それより、課長だなんて止めてくれよ。俺には部下なんていないんだ」
容子に顔を向けた木村の口元が歪む。容子の嫌味に気付いているのだ。
「でも職階はE。課長職じゃないですか」
NOMURA建設では数年前に賃金制度が改定され、能力を評価する職階制度が導入された。入社直後がA職で、それからB、C、Dと職務能力に応じて職階が進んでいく。それに伴って基本給や手当も変わる。Eが課長相当職でFが部長相当職だが、あくまでも相当であって部署を仕切る管理職ではない。E職以上は管理職手当がつくが、残業手当はなくなる。ちなみに美智は課長補佐相当のD職に上がったばかり。これ以上の昇進はないと分かっている。男社会のNOMURA建設で管理職の地位にいる女は、経営者一族の者とメインバンクの意向で就任した監査役だけなのだ。
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