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「美智さん、おかえりなさい」
顔を見せたのは由紀子だ。抱き着かんばかりの満面の笑みを浮かべながらも距離を取って頭を下げた。
「あなた人事課ね。今頃、みっちゃんのことを報告に来たの?」
容子が不服そうに頬を膨らませた。
美智は容子と由紀子が接触するたびに胸がキュンと傷む。容子が、由紀子が父親の愛人だとは知らないからだ。同時に、穏やかな表情を崩さない由紀子の度胸に感心してしまう。社内旅行で温泉コースに参加するというだけのことはあると思った
「いえ……。今日は採用の意思確認に参りました」
「採用?」
容子が目を白黒させる。
「はい。社長の指示です」
由紀子は希美に向いた。
「内藤希美さん。あなたが良ければ、派遣契約が切れた時点から、正社員として採用したいのですが、いかがでしょうか?」
「えっ、私ですか?」
「返事は今でなくても……」
「いえ、是非、働かせてください」
希美の声が裏返っていた。
「ノンちゃん、よかったわね」
皐月が手を叩きながらピョンピョン跳ねる。
「きっとみっちゃんが入院したからよ。ノンちゃんがいないと、仕事が進まないんだもの」容子がいう。
「美智さん。今日は肩慣らしにのんびりしていてくださいね。正社員になれるのも美智さんのおかげですから、私、美智さんの分まで頑張ります」
希美はとても張り切っていた。
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