鬼のかく乱

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経理課が希美の採用の話で盛り上がっていると、美智の頭の上から能天気な声がする。 「元気かぁ」 木村が美智の机にコンビニの袋を置いた。 「あら……。辞めるんじゃなかったの?」 「ひどいなぁ。辞めるなと泣いたのはみっちゃんじゃないか」 「そんな関係だったの?」 皐月が声を上げた。 「とんでもない。泣いてなんかいないわよ」 美智はきっぱりと否定する。 「あれからお袋が、みちゃんを口説けとうるさいんだ」 「私の方こそ、お母様にお花を頂いて、ありがとうございます」 美智は立ちあがって頭を下げた。 「先輩と木村さんなら、お似合いですよぉ」 皐月の無責任な言葉にも、木村はまんざらでもなさそうな顔をしている。 「私はね、年下のアイドル系が好きなのよ」 美智が言い返すと希美がプッと吹いた。 「アイドル?……マジかよぉ」木村が声をあげる。 「先輩、妥協も大切ですよ」 「仕事では妥協しても、恋愛では妥協できない性格なのよ」 笑う皐月をさらりといなして、パソコンに向かった。 「まいったな。ところで……」 木村が美智の耳元に顔を寄せた。 「ひとつ教えてくれ。どうして専務に労災隠しを命じられたことを知っていたんだ?」 「だって私はお局ですもの」 「そう呼ばれていると、知っていたのか?」 「ナニ、ナニ……、2人で内緒話?」 遠慮のない皐月が割り込むようにするので、美智は周囲にも聞こえるように言った。 「怖いおばさんを馬鹿にしちゃいけません」 「そうかぁー」 木村が腰を伸ばし、肩越しに手をヒラヒラと振りながら経理を後にした。
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