待ち人来たりて花は咲く

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「…真っ赤に燃える火柱の方が、ゼッタイ見映えいい。」 その一言は、とても低く暗かった。 男はポリタンクをその場に置くと、帽子を取って千万桜を見上げ、見つめる。 「…桜の花びらが散ってる画より、火の粉が飛んでる衝撃映像のがSNS映えっつーか…有名になるよなぁ?な?」 今度は先程と正反対の、明るく高らかな声。 しかし、その言葉は冷酷で且つ残酷だった。 男が千万桜に向けて同意を求める様に尋ねたのは、狂気に満ちた問いかけ。 相手は答えるわけもなく、ただただ夜風に揺れる。 まるで目の前の男に怯え、恐怖に震えているかの様に。 そんな自然の動きを肯定と勝手に捉えて、男はとびきりの笑顔を醜く歪ませた。 自らが思い描いた千万桜の無惨な姿を現実にしようと、男がポリタンクのフタに手を伸ばす。 その時だった。 ───轟! 凄まじい音と共に襲ってきたのは、春の嵐。 強風による急襲に、男は目を瞑り顔を手で庇った。足に力を入れて堪えるが、一歩二歩と風の力で後ろへ下げられてしまう。 結構な重量のあるポリタンクまでもが、その風に押されて倒れた。 それは一瞬の事だったが、ようやくという思いで男はそろそろと目を開ける。 そう、ほんの一瞬の事だったのだが──。 「…はぁ、恐い恐い。最近の子は物騒ね?」     
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