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 自分では割といい案だと思っていた。この山が無理なら引っ越せばいい話だ。そして普段閑散としている神社は、そういう意味でぴったりだった。  しかし青年は微妙な顔つきで唸っている。 「え……だめ……?」 「だめっていうか……あそこは縁の敷地だし……勝手に入るわけには……」 「よくわからないけど、縄張りみたいなもの?」 「なんていうか……神社は神聖な場所だから……そこの神が認めた者しか住めないっつうか……俺はそもそも野良だし……」  ごにょごにょと、だんだん語尾が小さくなっていく。さっきの勢いはどこへやら、心なしか体つきまで小さく見える。  しかし困ったことになった。この案がダメとなると、他にいい案は思いつかない。私までつられて唸っていると、それまで黙って聞いていた二紫名が、大袈裟に溜息をついた。 「おい、そこのおまえ」 「は? なに、やるのか──」 「俺が縁さまに掛け合ってやる」  青年が拳を固めたその瞬間、二紫名は事務的に事を告げた。ヒュウ、と冷たい夜風が私たちの間を通り過ぎる。私も、あおも、みどりも、多分思っていることは一緒だ。 『あの二紫名が普通に優しい!』  もちろんそんなこと、言えるはずはないが。 「あんた……実は良い奴だな……」  現金なことに青年は、にこやかに二紫名に握手を求めている。そして二紫名も無表情でそれに応えた。なかなか不思議な光景だ。
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