1227人が本棚に入れています
本棚に追加
自分では割といい案だと思っていた。この山が無理なら引っ越せばいい話だ。そして普段閑散としている神社は、そういう意味でぴったりだった。
しかし青年は微妙な顔つきで唸っている。
「え……だめ……?」
「だめっていうか……あそこは縁の敷地だし……勝手に入るわけには……」
「よくわからないけど、縄張りみたいなもの?」
「なんていうか……神社は神聖な場所だから……そこの神が認めた者しか住めないっつうか……俺はそもそも野良だし……」
ごにょごにょと、だんだん語尾が小さくなっていく。さっきの勢いはどこへやら、心なしか体つきまで小さく見える。
しかし困ったことになった。この案がダメとなると、他にいい案は思いつかない。私までつられて唸っていると、それまで黙って聞いていた二紫名が、大袈裟に溜息をついた。
「おい、そこのおまえ」
「は? なに、やるのか──」
「俺が縁さまに掛け合ってやる」
青年が拳を固めたその瞬間、二紫名は事務的に事を告げた。ヒュウ、と冷たい夜風が私たちの間を通り過ぎる。私も、あおも、みどりも、多分思っていることは一緒だ。
『あの二紫名が普通に優しい!』
もちろんそんなこと、言えるはずはないが。
「あんた……実は良い奴だな……」
現金なことに青年は、にこやかに二紫名に握手を求めている。そして二紫名も無表情でそれに応えた。なかなか不思議な光景だ。
最初のコメントを投稿しよう!