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目を閉じていてもわかる、瞼の向こう側からの朝の気配。早起きな鳥たちが、松の木に止まって挨拶を交わしている。「今日は天気がいいわよ」「やっちゃんも早く起きてよ」なんて、私の妄想だけど。
「んん…………」
目を擦りながらぼんやり瞼を開けると、生まれたばかりの太陽が、柔らかな光を部屋に注いでいた。今何時だろう、と時計を見ると、短針はまだ五を指している。
「ご……じ、よんじゅうごふん……?」
早すぎる。くわっと大きな欠伸を一つすると、布団から出て窓辺に足を運んだ。窓から下を見下ろすと、昨夜は雨でも降ったのか、地面が雨露でキラキラと光っている。
昨日もこの時間に起きてしまった。別に早起きが得意なわけではない。こうなるのには理由があった。この部屋にはカーテンがないのだ。いや、この部屋だけではない。この家中の窓という窓には、障子を除いて、カーテンは取り付けられていなかった。
そんなわけで、朝が訪れると否応なしに朝陽が部屋に入ってくるので、私は起きざるを得なかった。
キィキィとしなる階段を降りると、母が台所に立っていた。私に気づくと瞳を大きく見開く。
「あらぁ、やっちゃん、今日も早起きねぇ」
「お母さんも、ね」
「うふふ、だって、目が覚めちゃうんだもの」
母は手元の卵焼きを器用にひっくり返すと、コンロの火を消した。
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