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「まだまだ子どもだな」 「はっ? 馬鹿にしてるの?」  ムッとして、思わず階段を駆け下りる。落ちていく太陽の反対側にうっすらと登る月が、私たちを見ていた。 「君江は嬉しかったのさ」  ちょうど私と二紫名の目線が同じ高さになった時、彼はそう言った。 「田中さんが言っていただろう? 遊び道具に悩んでたって。そんな時、おまえがビー玉をねだって、君江は嬉しかっただろうよ」 「……そう、かな……」 「だから無理してでも買い集めたのさ。祖母とは時に、そういうもんだ。だから──」  二紫名は今度はいつものニヤリではなく、優しく微笑んだ。まるで、春の月のように。 「『申し訳ない』じゃなくて『ありがとう』と言うのが正しいな」  悔しい。よくわからない悔しさに、私は唇を噛んだ。そんな表情を見られたくないので、ひょいと二紫名を追い抜く。  私に記憶があったら、何か変わったんだろうか。祖母が亡くなる前に、『ありがとう』と伝えられただろうか。  そんなことは、考えたってわからない。 「──あ」  ふと、大事なことを思い出し、くるりと方向転換した。 「ねぇ、記憶! 道具を取り戻したんだから、記憶返してよ!」 「は?」 「いや、『は?』じゃなくて! 約束でしょ?」  二紫名の顔がいつものニヤリ顔に戻っていく。嫌な予感しかしない。 「道具が一つだけ(・・・・)なんて、いつ言った?」  完全に日は沈み、月がこの世を支配した。そんな世界でわなわなと、体を震わす私がいる。 「……な、な、な、な」 「これからもよろしくな、八重子」  すっかり暗くなった神社の入口で、近所の目を気にして声にならない声を上げる、不憫な私。  神様、縁さま、お願いです。この狐、どうにかしてください!        
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