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家鳴りの余韻がしていた。
どうやら、また眠りのなかに、その音が入りこんでいたらしい。
(なんだ。ただの夢だ……)
家鳴りの音にうなされて、悪夢を見たのだ。
やっぱり、早く引っ越さないと神経がもたない。
あまりにも寝汗がひどかったので、シャワーをあびることにした。
築四十五年だが、シャワーはついている。それに一軒家だから、近所迷惑にもならない。安心して、真夜中に汗を流すことができる。そういうところは、ほんとによい家なのだが。
服をぬいで、浴室に入った。
旧式なので、シャワーは水と湯の両方の蛇口をひねって、自分で温度を調節しないといけない。
湯をあびだしてまもなく、とつぜん、パシンと大きな音がした。家鳴りだ。起きているときに聞いたのは初めてだったので、私はあわてふためいた。
パシン! パシン——!
続けざまに、二、三度、鳴る。
なんだ? 何が起きてるんだ?
家鳴りって、こんなに大きな音がするものか?
まるで、屋根がくずれおちそうじゃないか。いや、屋根というか、もっと近く……。
パシンッ——!
ひときわ大きな音とともに、私は背中に痛みを感じた。
家鳴りに夢中になりすぎて、シャワーの温度が熱かったのだろうか。焼けるように痛い。
あわてて、私はシャワーを止めた。
バスタオルをかかえ、大急ぎで寝室にとびこむ。
布団のなかに入りこむと、少し落ちついた。
そうだ。夜は外気温が下がっている。そんなときにシャワーで湯を使ったから、いつもより家鳴りが激しくなったんだ。
そもそも、家鳴りっていうのは、寒暖差によって家の木材がひずむ音だ。ぜんぜん、不思議なことじゃない。
納得がいくと、自分の行動がおかしくなる。家鳴りにおびえて、バカバカしい。
私は洋服をとりに脱衣所に帰った。
電気もつけっぱなしだ。まったく。
ぬぎちらかした服をとりあげようとして、私はこわばった。
ピシッと小さく、音がした。
音のしたほうをふりかえる。脱衣所の鏡に、自分の背中が映っていた。
それを見たとたん、私は狼狽した。
鏡に映る背中。
いちめんに、蜘蛛の巣のようなヒビ割れが走っている。
(なんだ……コレ?)
いつのまに、自分は陶器の人形になってしまってたんだっけ?
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