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「もう少しでございます。」
うんうん唸る紅梅を他所に、女人達は産まれた時の産着や、産湯の準備で大忙しだ。
「ああ、紅梅。無事であってくれ。」
信志は、ずっと手を握りしめ、御子が無事生まれてくる事を祈った。
だが二日目の夜になっても、まだ御子は産まれない。
「王よ。今日のところは、一旦引き上げた方が……」
女人が気を利かせて、王に休むよう申し伝えた時だ。
「産まれます!」
産婆が叫んだ。
「紅梅!がんばるんだ!」
今にも産所に入りそうな勢いの信志を、女人達が止める中、紅梅の唸り声と共に、御子は産声を上げた。
「御生まれになりました!」
産湯につかった御子が、産婆の手で信志の元へ、届けられた。
「姫君でございます。」
信志の腕の中で、元気よく動き回る御子は、紅梅によく似ていた。
「王……男の御子でなく、申し訳ありません。」
紅梅の目には、涙で濡れていた。
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