憧れの二人

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シャツの首元をバタバタさせてもほとんど意味がないけどやってしまう。 去年の夏と同様、俺は部活帰りでバスを待っていた。 定時から遅れること10分、やっと到着したバスに乗り込み車内を見回すと、俺は一瞬タイムスリップしたんじゃないかと錯覚する。 何でかって。 そこには、美香先輩の姿があったから。 俺を見つけると、小さく胸元で手を振った。 あの時みたいに。 でも何かが違う。 違和感の正体を確かめるべく、ゆっくりと近づく。 優先席に腰掛ける美香先輩の姿に、俺は動揺した。 戸惑う俺の姿をよそに、美香先輩は淡々と話し始める。 「5ヶ月。検診の帰りなの」 心拍数が上がっていくのがわかる。 本当はすぐにでも確かめたいのに聞けない。聞くのが怖い。 「隣座ってよ、空いてるし大丈夫だよ」 何も言えないまま、隣に腰掛ける。 「ヤスタカ君?」 柔和な笑みを浮かべながら俺の表情を伺っている。 「お久しぶりです……」 「ん、そうだね」 俺が聞くまで何も言わないつもりか? 妊娠のこと。 沈黙が流れる。 聞かなきゃ。確かめないと。 焦れば焦るほど、言葉が出てこない。 「美香先輩……」 「ん?」 「もしかして、ですけど。あの時の、ですか?」 目を見れない。 横向きの優先席から見える景色をひたすら眺める。     
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