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そんな事を考えていたら、俺の存在に気がついたようで、微笑みながら小さく手を振ってくれた。
かわいい。
ニヤけそうになりながらも必死でこらえ、会釈で返す。
すると隣の座席を差しながら「ここ」と唇が動いて、手まねきをした。
え、俺を呼んでる?
吸い寄せられるように美香先輩の座席まで近づく。
「お疲れ様っす」
「お疲れ様。立ってないで座ったら?」
「いや、ダメですよ、部活終わりで汗臭いですし」
「知らない人が座るの嫌だから座ってよ。ね?」
ドキッとした。
ちょっとだけ強めの口調。
これは座らないと逆に失礼か?
「あ、はい。じゃ、失礼します」
大丈夫だよな?この流れなら座っておかしくないよな。
俺は慎重に腰かける。
「どこまで乗るの?」
「し、終点です」
「私も一緒」
「ああ……」
こんな近くで美香先輩の声を聞くのは初めてだ。
緊張する。
変な汗が出る。
あー、ただでさえ汗臭いのに!
先輩は窓の外を眺めていて、その横で縮こまる俺。
「ヤスタカ君てさ」
突然、外の景色を眺めたまま呟いた。
「はい?」
「女の子とスゴイ遊んでるんでしょ?噂聞いてるよ」
俺の方を振り向きそう言い切ると、証拠を掴んだ刑事のような顔つきになって、見下されたような気持ちになる。
嘘はつけない。
一瞬でそう悟った。
「いや、どうなんですかね」
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