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「職業......体験......?」
学校から帰宅し、私を待っていたのは母のそんな言葉だった。
不思議と母の声は久し振りに聞いたような気がする。どうやら私の将来のことについてくらいは、まだ私に興味があるらしい。
「あんらど~せ九月の連休暇らんれしょぉ~?だったら職業体験の一つくらい、してきなしゃいよぉ~」
ろれつが回っていない。まだ午後六時だというのにこの母親は......。部屋中に酒の匂いが充満している。どれだけ飲んだんだか......。
「いいよ、別に。私進路には困ってないから。心配しないで」
嘘。
きっと母も分かっている。
できるだけ、体温を冷まして言葉を話す。
私は母が嫌いだ。憎んですらいる。
だから「心配しないで」には猛毒を塗った針を仕込んで放ったつもりだ。
私は母の顔を一瞥することなく、流れ作業のように自分の部屋へと歩みを進めた。
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