蝶翅忘却症。

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 真っ白な部屋に飾られる美しい少年たち。 彫刻などではなく生きた人間。     美しい『翅』をもった少年たち。 「……美しい標本ですね」 柔らかな静寂のなかに波紋が生まれた。 「えぇ、蝶翅忘却症の病理標本です。一番古いものでも、壊れる事なく存在しています」 何十年、何百年前の少年も空虚な視線でどこかを見つめている。 【蝶翅忘却症】 ・蝶の翅がはえる奇病。 ・症状は、背中から蝶の翅がはえる。進行すると記憶がひとつひとつ消える。 ・症例は多くなく、未だになぜ発病するのかは解明されていない。 ・花の種が薬になる。 パネルに書かれた内容を読み、視線を少年たちに戻す。 記憶を失うのと同時に生体機能が変化するのか、少年たちは不老不死になっていた。 ゆっくりとした呼吸、臓器の機能もゆっくりと最低限となり、食事を摂らなくてもよい身体となるため、【生きた病理標本】として施設に集められた。 「……とても、興味深いです」 感情の乗らない声が感情を表現し、興味深いと視線が語る。 「世界一美しい病理標本です」 ヒューマンロボが微笑んだ。 「…そうですね」 表情のない人間は静かに応えた。 人間の背中には、美しい蝶の翅の痣があった。
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