喉咲花。

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喉咲花。

 冬が過ぎ暖かく成ってきた。 むず痒い喉を隠すように襟を立てる。 ぐるりと巻いた茎が葉を出し、蕾をつける。 蕾をつけた頃から、喉が痛み始めた。 世界にも、歴史にも、数がすくないこの奇病。 ずくり、ずくり、と痛む。 声を出すことも、微笑む事も難しくなってきた。 『果実の種が薬だよ』 にこりと笑った彫刻のように美しい少年が一つの種を差し出した。 「…ど、いう?」 『ふふ、この種を使えばその病気はなおるよ。ただ、使い方を間違えたらダメ』 一粒の種。 今まで見たことのない種。 喉から生えるこの蕾を、痛みをとれる薬。 「……どう……って…」 『ねぇ、おにいさん。僕のお願いを聞いてほしいんだ』 ニンマリと笑った少年にゾクリと背筋が粟立った。 氷よりも冷たいなにかがかけ降りた。 「…………っ!!」 少年の冷たい指先が喉を撫で、茎と蕾を撫でた。 『僕の、器になってほしいんだ』 呼吸が一瞬止まった。 『あ、大丈夫。おにーさんの命はとらないよ?』 楽しそうな笑顔で少年は恐ろしいことを言った。 『ふふ、貴方が死ぬまで僕が貴方の中で眠るんだ。そして、貴方が死んだあと僕は身体をもらい受ける』          キラリと琥珀色の瞳が金色に見えた。 『ねぇ、どうする?』 首筋に回った細い腕。 楽しそうに笑う少年の八重歯。 答えは一つしか用意されていなかった。 「は、い」 ふわりと咲き誇った喉の花と共に、激痛が走った。 悶絶し、呼吸ができず、のたうち回る。なんて、生易しい。もっと、もっと、激しい痛みが喉を、脳ミソを、身体中を、襲ってきた。 『ダメだよ。僕の身体になるんだからね』 美しく微笑んだ       少年が      目の前で、嗤った。  暗闇に呑まれた意識が再度浮上した時。 誰もいなかった。 最後の記憶の少年は、誰だったのか…。 死するその時まで、判らない。
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