虹髪感情。

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虹髪感情。

 彼は幼い頃から感情の起伏の薄い人だった。 泣かない、怒らない、喜ばない。 大人たちはとても困った。 「子供らしくなさい」となんども言った。 「プレゼントを貰ったら喜んで、お礼をいいなさい」 「なにかしてもらったら、ちゃんとお返しをしなさい」 「子供らしく、笑いなさい」 何もかも、その人を戒めるものだった。 その人はなにも聞いていないように大空を見つめていた。 とても、大人しく、大人びた子供だった。  大人たちは、なんの感情も見せない彼を畏怖した。  大人たちは、人形のような彼を壊そうとした。 彼は何事もない表情で生活をしていた。  ある日、彼の美しい金髪が鉛色になっていた。 なにがあったのかと聞こうとしたが、大人に止められた。 「あの子は悪魔憑きだから近づくな」 大人たちの口癖だった。 「悪魔憑き」は本当になった。 彼の髪が鉛色になった日。 一人の大人が消えた。 そこからは早かった。 ひとり、ひとり、またひとり。 彼の家に行く大人が消えていった。 大人たちは恐怖していた。 恐れ戦き彼を亡き者にしようとした。 「悪魔は祓わなければ…」 「悪魔が憑いている…」 大人たちの血走った目がとても怖かった。  大人たちは炎を持って、刃物を持って、鈍器を持って、彼の家へ向かった。 そして、彼は初めて『笑った』。 大地が響くような。   風を切るような。 愉快そうに不快そうに笑っていた。 家を焼き付くす炎のように赤く、立ち上る煙のように黒い髪色になっていた。 「これが怒りか」 笑う。嗤う。 「大人たちが言っていたな。何をされるにしても、恩義を返せと。だから俺は恩義を返したぞ」 感情が振りきれた笑いは、狂気を感じるものだった。 愛する者のいない彼は、治らない。
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