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黒塗りの転校生 一
ーーあれは、なんだ?
教室に担任の教師と共に入ってきた何か。教師はにこにこと上機嫌に笑いながら教壇に立ち、クラス全体に挨拶をした。
「みんな、おはよう。知っている人もいるだろうけど、今日からみんなのクラスメートになる転校生を紹介する」
教師はそう言うと何かを見て促し、黒板に何かの名前を書いていく。
「加納縁です。これからよろしくお願いします」
挨拶をし、礼をしたのだろう何かの形が変わり、元に戻る。黒板に加納縁という文字を書き終わった教師が再度口を開くが、生徒の誰も聞いていないだろう。
それは思わず聞き入ってしまう声だった。特徴のある声というわけではないが、聞こえれば思わず振り向いてしまう何かがあった。クラスメートとなる生徒達から拍手と歓声が沸き立つ。名乗ったばかりの縁の名前を叫ぶ声もあった。
「珍しい時期の転校生だけど、みんな! 仲良くしてやってくれ」
隣のクラスにも響いたであろうかなりの騒音になったにも関わらず、教師は特に生徒を注意することもなく締めくくる。拍手は収まったがクラス中のざわめきは続いている。
そんなクラスの中で俺は……俺だけは、何も出来なかった。拍手も出来ず、声もあげられず、転校生の加納縁と名乗った少女であろう何かから目をそらせない。視線だけではない、まばたきをすることも、呼吸すらも忘れたまま魅入られていた。
ーーあれは、なんだ?
あれの姿を……俺には、より濃く、より黒く塗りたくったかのように真っ黒な塊にしか見えなかった。
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