黒塗りの転校生 一

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「それで、もう大丈夫なのか?」  じゅるるると音をたててゼリー飲料を飲みながら、心配してくれる琢磨に頷いて返す。購買も覗いたが今の胃の状態で食べられそうなものがなかった。須藤先生、本当にありがとう。  購買があるフロアは広いスペースになっていて、そこにいくつかのテーブルと椅子が用意されている。特に昼休みには食事スペースとして生徒が早い者勝ちで日々席を奪いあっている。そのテーブルの一つを俺と琢磨が向かい合わせで座っていた。 「圭介と俊樹は?」 「先に行っててくれって。二人とも転校生が気になるんだってさ」 「ふーん…」  ここにいない二人のことを琢磨に聞くと、思ったよりも素っ気ない返事が返ってきた。みんなが転校生を気にしている。それは当然なんだろうけど、必死に気にしないでいようとしている自分からすると異質に見えた……ふと、異質なのは自分だったなと思い直し、自虐的な笑みが浮かんだ。 「ーーそれで、何色だった?」  昼御飯を食べ終わったのか、箸を置いて広げていた弁当箱を片付けながら琢磨が俺に問いかける。その問いを聞いて俺は転校生の姿を思い出し、眉を寄せて目を閉じた。 「黒。しかも外見が全く見えなくなるくらいの真っ黒。おかげで顔もわかんない」 「……なんか凄いネガティブな印象なんだけど」  琢磨は俺の能力を知っている。以前、とある理由で笑うだけだったりポーカーフェイスで感情を偽ることを貫いていた琢磨の本当の感情を当てまくったら喧嘩になったことがあり、その際に教えたのだ。あの時は本当に悪いことをしてしまったと反省している。 「ネガティブっていうのは当たっていると思う。でも、今まで見てきた中で強く感情的になった人でも輪郭すら見えなくなった人はいなかったんだ。それくらい恐怖感があるのか、失望したり絶望したりしているのか。見たときは本当に怖かったよ」  飲み切ったゼリー飲料の容器をビニール袋に入れて、ふと気づいたことを思い出した。
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