黒塗りの転校生 一

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 教室の扉は開けっぱなしになっていて、中を覗くと人がごった返していた。わいわいと楽しそうな声が上がる人の塊の中心は、案の定、転校生の加納だった。周りのクラスメイト全員が黄色や赤い光で覆われていて、本当に夢中になっているんだろうことがうかがえる。  ただ問題は、俺の席が加納の前、つまりあの人混みの中だということだ。琢磨は通路側の席なのですんなり座れたが、クラスメイトを掻き分けて席に戻らなければいけないのは正直嫌だった。  だが、そんなことは言ってられない。人だかりに近づいて通れそうな隙間を探すが、そんな隙間すらなかった。 「おーい、通りたいんだけど」  集団に声をかける。しかしそれを聞く人は誰もいない。振り向く人も、気にかける人も、感情をわずかにすら変える人すらいなかった。その状況にいらいらしてしまい、つい強い口調で声を出してしまった。 「おい!」  ーー一瞬で、集団の感情が赤黒く染まった。全員が俺を向く。その顔全てが、感情を隠さずに表しており、それが何かを一瞬で理解できた。クラスメイトの予想外の変貌に、俺の体が硬直して頭が真っ白になった。 「……あー、すまん。時間ぎりぎりまでは離れてるから」  なんとかそう言ってゆっくりと壁まで後ずさり、集団から離れていった。俺が離れると真っ赤な塊は徐々に薄くなり、元の楽しげな集団に戻っていった。 「……大丈夫か?」 「……大丈夫じゃない」  琢磨の席まで戻ると、琢磨が小さな声で語りかけてきた。感情の色が見えなくても、空気が変わったのを感じたんだろう。琢磨も緊張した面持ちだった。  一体何なんだ。加納が魅力的だから惹かれているとか、昼休みに考えていたことが生易しいものであると感じた。完全に虜になっている。  恐怖を覚えたし、それに何より、圭介と俊樹までもが集団から俺を睨んでいたことがショックだった。
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