黒塗りの転校生 一

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「お前本気で言ってんのか!?」  教室の扉に手をかけた時、琢磨の怒鳴り声が聞こえてきて顔を向ける。そこでは琢磨が圭介の肩を掴んでいた。何事かと思ったら、圭介が肩を掴む琢磨の手を強引に振りほどいた。 「俺とお前は部活違うんだから一緒にいく必要なんてないだろ」 「レギュラー争いしてるんだろ? 昨日も早く行きたいって言ってたじゃねえか!」 「うるせえな! 昨日は昨日だろうが! 部活なんて後で出るさ」  ……後で出る? 圭介がサッカーを後回しにするようなことを言っている事が信じられない。圭介はサッカーに関してはかなりストイックな奴だ。後回しにするような奴じゃない。 「お前……本気で言ってるのか?」  先ほどと同じ台詞を吐きながら、琢磨が驚愕した顔を圭介に向ける。先ほどは怒りの余りの怒鳴り声だったが、今は黒と青が入り交じる驚きと悲しみの呟きだった。  あまりの変わり様に琢磨が口を覆う。二人を止めようと近づいた時には、用は無いと言わんばかりに圭介は背を向けていた。  そして、圭介の横に俊樹がいることに気づいた。だが俊樹は俺と琢磨を、横にいる圭介までもを完全に無視しており、加納に向けて恍惚とした笑顔を向けているのだ。 「俊樹、お前も……」  俊樹は将棋部の先輩に片思いをしている。将棋部を作ろうと活動している先輩に一目惚れし、先輩の為に部員集めに協力し、俺に土下座までした奴なんだ。そんな俊樹が放課後になっても将棋部に行かず、加納といることを選んでいる。  目の前に広がる光景を理解できない。どう考えてもまともじゃない。なんでこんなにも加納に尽くそうとするんだ!?  もう見ていられずに背を向けて、俺は琢磨を置いて教室から逃げ出した。
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