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思わず絶句していた。これが俺? こんな顔で大丈夫なんて言われても、説得力なんて皆無だった。幽霊か何かだと言われた方が納得してしまうだろう。
強い口調とは裏腹に、俺の手から鞄を取りあげ、ベンチへ向けて手を引いてくれる洋子さんの対応はとても優しかった。それに逆らえず、されるがままに連れられてベンチに座る。一度座ってみれば、体が鉛のように重いのが実感できた。
「ここで休んでること。いい?」
洋子さんは俺をベンチに座らせてすぐに何処かへと行ってしまった。行き先は確認していない。洋子さんの声も聞き流してしまっている。
うつむいて息を整えようとしていると、だらりと太ももの上に置かれた自分の手に目が向く。指先が震え、止めようとするがうまく止まらない。手を握るにも力んで余計に疲れてしまい、ため息が出る。
何が自分のことで精一杯だ、自分のことすら見れていなかった。心配してくれた洋子さんへ向けた俺の酷い態度を思いだし、自責の念が浮かぶ。
「はい、どうぞ。ゆっくり飲んでね」
洋子さんの声が聞こえると共に、目の前にスポーツドリンクが出された。反射的に片手で取ってしまうが、手に力が入らず落としそうになって慌てて両手で包み取る。思わず洋子さんとスポーツドリンクを交互に見返して、おずおずと頭を下げた。
「ありがとうございます」
俺がスポーツドリンクを受けとると、洋子さんはにこりと笑って俺の横に座る。配慮してくれたのか少し温めのそれはとても飲みやすく、一口飲むだけで身体中に染み渡るような感覚を覚える。ついつい飲みすぎてしまい、勢い余ってむせてしまった。咳き込む俺の背中を洋子さんが優しく擦ってくれるが、ここまで世話を焼かれてしまうと流石に気恥ずかしい。
「学校で何かあったの?」
洋子さんが優しい口調で問いかけてくる。否応なしに学校でのーー加納との事を思い出す。そして琢磨、圭介、俊樹達の事を。だが、言葉が見つからない。何かあった、何かが起こったのは確かだけど、それが不可解で言葉が見つからないのだ。
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