黒塗りの転校生 一

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 賑やかな雰囲気の教室がある。それは教室の中央にある席を中心に広がっていた。生徒だけじゃない、教師も一般人も含めた、いろんな人達がそこにいて、皆がそれに夢中になっていた。琢磨も、圭介も、俊樹も、須藤先生もいた。  その光景を前に、俺は立ち尽くしていた。立ち去ることも、駆け寄ることもせず……何も出来ずにそれを眺めているだけだった。  誰一人こちらに気づいた様子はない。こちらからは人混みに隠れて見えない誰かと話し、笑顔を浮かべている。  そこはそんなに楽しいのだろうか。楽しいはずだ。そうに違いない。身体が動かせないはずなのに、意識が皆と混じって遊びたがろうとする。  その直後、皆が突然赤く染まる。それと同時にその場にいる全員がこちらを向いた。顔も見れないくらいに真っ赤に塗りつぶされているのに、こちらを見ているとわかってしまった。  赤い塊が形を変える。俺の前にいる人が左右に分かれていくのだ。そうなれば当然、中心にいる誰かが視界に入ってくる。  真っ赤に染まった中に、一つの黒い塊が現れた。それはとても濃く塗りたくられ、少しずつ周囲の赤を黒く塗りつぶしていく……違う。それが俺に近づいてきているのだ。近づくにつれて俺の視界を埋めるから塗りつぶされているように見えたのだ。  それに気づいた時、既にそれは目の前にいた。人なのはわかっている。だが生気を感じない、ただ黒く塗りつぶされたなにか。それが目の前に立ち、じっとこちらを見つめている。  お前は一体、なんなんだ。  そう叫ばずにはいられなかった。そう問いかけずにはいられなかった。でも、声が出せない。口が動かない。体が硬直し、指先を自分の意思で動かすことすら出来ない。それでいて小刻みに震え、息は徐々に大きくなる。目が乾いて痛みを訴えてきている。
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