黒塗りの転校生 一

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 感情というものはうつろいやすいものである。箸が転んでもおかしい年頃という言葉もあるくらいに、人は幼い頃から感情に振り回され、大人になっても平常心を保とうと理性で抑え込むものだ。  まるでロデオだ、と思わずにはいられない。カウボーイが感情という暴れ馬に振り回されながらも乗りこなすのだ。それが出来るようになることが『大人になる』ということなんだろうか。  若造が何を知ったかのような口振りで説いているのだ、と感じてしまったのであれば申し訳ない。事実、俺は未成年かつ高校生の身分であり、若造も若造だ。アルバイト代わりに家業の手伝いをする以外には取り立てて目立った実績があるわけでもない。  しかし、しかしだ。俺には他にはない『特別』がある。それによる経験があって語っていたのだ。 「おい、何ボーッとしてんだよ。お前の番だぞ直哉」   その声にハッとして我に帰る。机を中心に囲んだ三人の学友。机の上には雑に積み上がったトランプの山。正面に座る土門琢磨の手には二枚のカード。そして俺の手にはクラブのエース。思い出した、昼休みに弁当を食べた後にババ抜きを始めたのだった。 琢磨がずいっと手に持つカードを向けてくる。単純明快、どちらかにあるジョーカーを避けられれば勝利の状況だ。  俺は思わせぶりに、ゆっくりと琢磨の持つカードに手を伸ばす。こんな時こそ、俺の『特別』が役に立つ。
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