黒塗りの転校生 一

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 夕食を終えた後は部屋に戻り、ベッドに寝転んでまだ読んでいない漫画を読みふけっていた。机の上には広げっぱなしの教科書とノートが広がったまま、横には宿題のプリントがぺらりと放り出されている。終わらせないといけないのはわかっている。だが、学校が絡む事をしていると、思考の片隅に黒い影がちらつくのだ。  普段なら後でやる後でやると言い訳しながら別の事をしてしまうのだが、今回ばかりは言い訳すら出来ず手をつけることを躊躇してしまう。既にトラウマになっている可能性がった。 「直哉、いいか?」 「……はーい、いいよ」  現実逃避に勤しんでいると、ノックと共に呼び掛けられた。声からして父さんだろう。返事をするとゆっくりと扉を開けて、やはり父さんが顔を出した。 「なんだ、漫画読んでるのか。勉強は済んだのか?」 「んー」  父さんの苦言に唸ることしか出来ずに顔を伏せる。漫画を読んでいるが、半分は読めていない。心ここにあらずといったところだ。正直なところ、なにも考えずにいたいとも思っているが、何度も寝た影響で眠気など飛んでしまっている。それでいて何もしていないと学校の事ーー加納の事を考えてしまい、苦しいのだ。 「まだ、体調は悪いのか? どこか痛いなら薬を持ってくるぞ」  父さんが優しい声色で問いかけてきた。視線を向けると、やや青い色をまとった父さんが心配そうな顔を向けている。 「体調は悪くないよ。学校で色々あって気分が優れないだけ」 「そうか……あまり言いたくなさそうだな」  頷くことで父さんに答えた。洋子さんの時と同じだ。何て言えばいい。見たことを言ってどうする。何を馬鹿げたことを言っているのかと思われるに決まっている。ただでさえ、既に前科があるのだから(・・・・・・・・・・・)。 「それで、どうするか決めたのか?」  父さんの新たな問いがどういう意味かわからず、顔を向ける。 「どうするって?」 「なにか嫌なことがあったんだろう? それについてどうするか考えているのか?」 「……何も。何をどうすればいいか考え付かないし」
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