黒塗りの転校生 一

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 手に持っている漫画を閉じて脇に置いた。どうすればいいのか、そんなこと俺が教えてほしい。加納がなぜ真っ黒な感情になっているのかもわからないし、なぜクラスメイトは加納に尽くそうとするのかもわからない。俺や琢磨がなんともない理由もわからない。何もかも、俺にはわからなかった。 「直哉。今のお前は問題を先伸ばしにしているだけだ。このままじゃ嫌なことは絶対に解決しない」  父さんの物言いに思わず反感を持った。学校での出来事ははっきり言って異常だ。あれに対してどうすればいいかなんてわかるわけがない。  知らないくせに何を言っているんだ。何があったか伝えていない事を棚に上げて言い返してしまう前に、父さんが言葉を続けた。 「だから決めるんだ。直哉はどうしたい?」  続けて、父さんに問いかけられる。 「俺が、どうしたいか?」 「そうだ。嫌なことがあったとして、それは時間で解決するものなのか? そうじゃないなら、直哉が何かしないと嫌なことのままだ」  父さんの言葉に口を挟めない。あんなこと、時間で解決するわけがない。わからないことだらけだけど、それだけははっきりとわかる。 「わからないなら、知ればいい。調べたり、誰かに聞いたり。嫌なことの原因がわかっているなら、直接それを調べるのが手っ取り早い」  そこまで話して、父さんは一度口を閉じる。一拍置いて、もう一度口を開いた。 「どうすればいいかわからないってことは、直哉の中にまだ決断する為の判断材料が足りてないんじゃないのか? だったら、自分がどうしたいのかを決められるまで悩んで、調べて、考えるんだ」  何が起こったのかわからない。だから、どうすればいいかわからない。  ならば、どうすれば起こったことの理由がわかるのか。その答えは自分の中に無い。  ではどこにあるのか。単純だ、加納のことは加納に直接聞けばいい。  漠然とした悩みが、頭の中で一つずつ組み立てられていく。すると霧が晴れるようにすっきりとして、ストンと胸に落ちた。  夕食前に見た夢を思い出した。身体中を縛られる恐怖の中、黒い塊に叫ぼうとしていた自分。あの夢は自分の本心を暗示していた。俺は、知りたかったんだ。
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