黒塗りの転校生 一

5/29
前へ
/29ページ
次へ
商店街を抜けてすぐの道路を渡れば住宅街になるが、その道路に隣接したところに、民家の一階を店舗に改築した花屋がある。  フラワーショップ道木みちき。アルバイト先であり、我が家でもある場所だ。 「ただいまー。買ってきたものどこに置けばいい?」  お客様はいなかったから店の入り口から家に入り、声をかける。レジの下に置いてある包装紙等を確認していたのだろう、声をかけるとひょっこりと母さんが顔を出した。 「おかえりなさい。こっちに頂戴。いくらだった?」 「千八百円。はいレシート」 「ありがとう。二百円はあげる」 買い物袋とレシートを渡し、千円札二枚を受けとる。レジの奥から直結している家の中へ入り、自分の部屋に向かう。 「あっつ……」  部屋に入ると共に鞄を机の上に置き、上着を脱ぎながら部屋の窓を開ける。夏休みが終わったばかりだが、まだまだ暑さは続くようだ。制服からワイシャツとスラックスに着替え、台所へ向かう。冷蔵庫の中にある麦茶をコップ二杯飲み、店の名前が書かれたエプロンを着けて店に戻る。  レジに立つ母さんの横に立ち今日の販売履歴を確認するが、首をかしげる。アルバイトを入れる程忙しくはなさそうだった。 「今日、俺いる?」 「あれ? 今日はお母さん出掛けなきゃいけないって言ってなかったっけ?」 「んー……言ってたっけ?」  あまり記憶にない。出掛けるといっても、どうせお得意様の華道教室のところだろう。近くだし、そんなに遅くはならないはずだ。 「夕飯には帰るから。在庫はそこ。外の花はもうちょっとしたら向きを変えておいてね。日が沈みそうになったらしまっちゃってね。あ、裏に押し花作ってるからタイマー鳴ったら確認しておいてね!」 「はいはいわかったから。いってらっしゃい」  慌ただしくまくしたてながら家の中へと入っていく母さんに返事をする。在庫は問題無さそうだが、レジの小銭がもう少なかった。小銭を補充して付箋に「小銭少ない」と書いてチェック表に張っておく。 ある程度のチェックが終わったところで、店内を見渡す。色とりどりの花に囲まれているが、そこから更に目を凝らす。母さんは花が好きだ。店を開くくらいに花を愛している。それが店内の花にもよくわかるくらいに、花は黄色い光を放っていた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加