黒塗りの転校生 一

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 このように、俺の能力は人だけでなく植物にも有効である。植物に感情はあるかを研究している学者様には申し訳ないが、俺の能力では感情はあると断定している。立証はできないが。  店内と外に置いた花を全て確認する。ちょうど外と中で一輪ずつやや薄く青い光の花を見つけたので、外と店内で入れ換える。ついでに太陽の向きに合わせて花を移動させて、今のところ行う作業は終わった。  お盆も過ぎ、祝日等のイベントから外れた時期なので、その後のお客様は二人程度で本日の営業は終了した。外に出していた花を店内に運び、掃除をしてシャッターを閉める。在庫や金額のチェックを済ませ、家の中に入るとほぼ同時に母さんが帰ってきた。 「おかえり。もう閉めといたよ」 「ただいまー。ありがとうね。すぐにご飯作るから」  母さんを出迎え、先にシャワーを浴びる。きつくではないが、どうしても土の臭いがついてしまって気になるのだ。その後は食事をしているときに父さんが帰宅し、一家団欒の時間を過ごす。部屋に戻り、学校の宿題を済ませて就寝。  こんな一日が、俺の日常だった。友達と遊び、たまに店を手伝う、特別な力があっても、同年代とは特に代わり映えのしない内容の日々だと思っている。  感情が見える。だからといって、この能力を活かして行うことが思い浮かばなかったのだ。色からは単純に喜怒哀楽が読めるくらいなのでギャンブルにもそこまで使えない。漫画等のキャラクターみたいに活躍することも夢見たが、活躍する展開が考え付かないし、能力が使えなくなる展開の物語を見て、自分の能力が使えなくなったらと考えてしまい将来の仕事にそれを活かそうと考えるのはやめてしまった。  そんなこともあり、俺、道木直哉は他とは少し特殊なだけの人間だった。このまま将来は学校を卒業し、大学、就職……といった道を歩むんだろうと漠然と考えていた。  ーーそんな日々も、今日が最後になった。
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