0人が本棚に入れています
本棚に追加
「それじゃあ。加納、お前の席はあそこだ。窓側の一番後ろ」
教師が指を指したのを見て、思わず俺の体が震えた。窓側の一番後ろ。その一つ前の席に俺が座っているからだ。
転校生が来るのは知っていた。情報が早い生徒から噂が広まり、自分の席の後ろに新たに席が用意されているのを見たのだ。仲良く出来たらいいな、と俺もぼんやりと考えていた。
でも、無理だ。一歩一歩近づいてくる黒い塊。机の上に置いた手は痛いほど強く握られ、ほどくことが出来ない。
全力で目を閉じた。体が動かないのに、よく目を閉じられたと自分を誉めてやりたい。ざわつく教室の中、自分の荒れた呼吸と近づいてくる足音がやけにはっきりと聞こえた。
ーーあれが、すぐ横を通りすぎた。
一秒が凄く、凄く長く感じられた。握られた拳は震え、歯が噛み合わずかちかちと音を鳴らす。その音よりも足音がやけに耳に響いていた。
やがて足音が止まり、椅子を引く音と鞄を置く音、椅子に座ったであろう音が聞こえて、恐る恐る目を開けた。視界に黒い塊はいない。それを確認して安堵のため息を吐いた。ようやく気付いてほどいた両手は小刻みに震え、手のひらに食い込まれた爪跡からじわりと血がにじんでいた。
深呼吸をして心を落ち着かせようと試みる。少しずつ呼吸が落ち着いて思考も働いてくれるようになった。なってしまった。そして、気付いてしまった。
ーーあれが、俺の後ろにいる。
ーーこれからも、ずっと?
最初のコメントを投稿しよう!