黒塗りの転校生 一

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 絶叫しそうになる口を両手で無理矢理閉じる。ここでようやく自分の感情に気付いた。  これは恐怖だ。得体の知れない何か。引き込まれてしまう何か。それがすぐ後ろにいる。  怖い。怖い、怖い怖い! でも、怖くて動けない。金縛りにあったかのように、両手で口を押さえる姿勢のまま固まってしまっていた。  どうしよう。怖い。助けて。どうすればいい。苦しい。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ助けて!!  その時、教室のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。それをきっかけに教師がホームルームを終える旨を伝えて教室を出る。  もう駄目だ。席を立ち、教室から出ようと急いで扉へと向かう。しかしクラスメイトが道を塞ぐ。転校生に興味があるのだろう、みんなが我先にとこちらに迫ってきている。その気持ちは少し前の自分であれば理解できたはずだ。でも、今の自分にそんな余裕はない。  彼らをかき分けるようにして少しずつ、もどかしさを感じる程に少しずつ進み、ようやく廊下に出ることが出来た。壁に手を置いて荒いままの息を必死に整えようとする。  これからもずっと、あれと? そう考えてしまった途端、一気に吐き気をもよおした。急いでトイレへと駆け込み、便器へこみ上げた吐瀉物をぶちまける。  しばらくそのまま吐き続け、落ち着いたところでチャイムが鳴り響いた。授業が始まる。教室に戻らなくてはいけない。  だが、あれが思い浮かんだ途端に体がびくりと震えてしまう。吐瀉物まみれになった手と口を洗って、我ながらに酷い顔になった自分を鏡越しに見る。青白く、血の気の引いた顔がそこにあった。  今の自分は、どんな色なんだろうな。  感情の色は、鏡越しには見えない。この能力について色々調べてみた時期があり、自分がどんな色の光を出しているか確認しようとして試行錯誤してわかったことである。  しかし、今はそんなことはどうでもいい。ひりひりと痛む喉に手を当てながら、教室ではなく保健室へ向かった。
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