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「しばらく横になってなさい。先生には私から伝えてあげるから」
養護教諭の優しい言葉に甘えて、備え付けられているベッドで横になる。保健室にお世話になるのは初めてだった。シーツや布団がやけに固く感じられたが、いざ入ってみるととても暖かく感じられた。
目を閉じていると少しずつ気持ちが楽になる。加納縁と名乗る何かへの恐怖は拭えないが、思考能力も回復してきたことで様々な考えが浮かび上がる。
ーーあれは何か?
当然、人間だ。教師も転校生と言っていたではないか。
ーー何故黒い塊のように見えた?
いつも通り、能力で彼女の感情が出たのだろう。感情が強ければ強いほど、俺から見える光は濃くなる。喜びが大きいほど、悲しみが深ければ深いほど、強く強く怒るほどに。
ーーでは、黒い色の意味は。
何度か見たことがある。例えば中学生の時、野球部のピッチャーだった琢磨が、一回だけで六失点した試合を見た時。マウンドでうずくまっていた琢磨は黒い光で覆われた。姿が見えなくなるのではないかと思えるほどに。
黒い光は……絶望だ。それも彼女は姿を見ることが出来ないほどに強く、強く絶望していることになる。
時期外れの転校生。絶望している女子生徒。一体彼女に何が起きたのだろう。ぐるぐると思考が渦のように回り、いつしか飲み込まれるかのように意識を手放していた。
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