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それだけ僕の高校生活は灰色だったということだろう。
思い入れの薄い高校の記録を眺めるのも飽きてダンボールに戻そうとしたとき、アルバムから写真が一枚、ハラリと足元に落ちた。
僕はその写真を拾い上げて、思わず声を上げた。
その写真に写っていたのは、アニメのキャラクターの恰好をした三つ編みのメガネ女子だった。
彼女の名前は、ナオ。
高校のとき、僕が心を許せた唯一の存在だった子だ。
ナオは僕のくだらない趣味や理想、学友のグチ、そして夢の話を面倒がらずに聞いてくれた。親でさえ鼻で笑った将来の目標を真剣に応援してくれた。
ナオは僕と同じで本を読むのが好きだった。
毎日、図書室で会って、それぞれに好きな本を読みながら過ごし、夕暮れの道を一緒に帰った。
いつも一緒だったけど、恋愛感情なんてものはなかった。だけどお互い毎日顔を合わせるのが当たり前の存在になっていた。
そんな彼女との出会いは、忘れもしない。
最悪だった……。
ナオと僕の関係は一冊しかない本を巡っての口論から始まった。
ナオはその本が入ると聞いて、一番に予約を入れていた。でも司書の先生にその本を入荷してくれるように頼んだのは僕だった。
どちらも優先権を主張して譲らず、周囲の注目を集めるほどの派手な口論に発展したのだ。
ナオは大人しそうな外見からは想像がつかないくらいに気が強く頑固で、本を一番に借りる権利は自分にあると主張した。
僕が入荷を頼んだのは僕だと言っても、取り付く島はなかった。
結局、その日は壮絶な本の取り合いのせいたで、ふたりとも仲良く図書室を追い出されてしまった。
それからしばらくの間、僕らは顔を合わせても、お互いのこと無視していた。
僕はあんな意固地で性格の悪い女に関わるのはゴメンだと思っていたし、ナオとて同じだろう。
幸いナオは一学年下で、教室も僕のクラスから一番離れた所にあった。
だから意図して会おうと思わなければ、顔を合わすことなどなかった。
ただし、図書室は僕にとって学内で唯一といっていい安らぎの場所だ。そんな場所にナオも毎日やって来るのだ。
大嫌いな相手と顔を合わせるとしても、休み時間や放課後に図書室に行かないという選択肢は、僕にはなかった。
きっとナオにしてみても同じだったのだろう。
そんな僕らが話すようになったのは、本当に些細なきっかけだった。
僕が落としたキーホルダーをナオが拾った。たったそれだけのことだ。
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