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プロローグ
「なあ。月ってどんなところだと思う?」
銀の髪の少年はそう問うた。
年季の入ったオンボロ車を運転している銀の少年の問いかけに、隣でぼんやりと景色を眺めている少年は答える。
「さあね。もしかすると文明は滅んでいるのかもしれないし、ここよりももっと発達しているのかもしれない」
録に舗装もされていない道を突き進む。緑のない荒廃した大地は岩と崖続きで危ないが、車は貴重な移動手段だった。荷物と共に揺られながら、少年は三つ編みに縛った自らの黒い髪を指先でいじる。その様子を横目で見た銀の少年は、ある提案を出した。
「髪、切ったら?」
「んー、僕も今考えていたところだけど、もうちょっと伸ばしてからにするよ」
「結構気に入ってるだろ」
「でも、銀(イン)みたいに短いのもきっと楽だよな」
「まあな。鬱陶しくないし」
「銀の髪って月みたいだよな」
「なんだそれ。意味わかんない」
銀と呼ばれた少年は、ハンドルを握りながら苦笑する。不器用に弧を描いた唇は色素が薄い。
朝は遠く、夜は深い。散りばめられた星と、空中にぽっかりと浮かんだ月が二人を照らしている。がたがたと揺れる車体にうんざりしながら、黒い髪の少年は空を仰いだ。
「なんにせよ、目指すのは月だけさ」
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