桜といえば鬼

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桜といえば鬼

「死ね! 化け物が!」  親友の三河が、必死で叫びながら、俺の首を渾身の力で絞めた。  何が起きているのか、わからなかった。  ヴァーチャルリアリティシステムを導入した、地元のショッピングセンターにできたフードコートで、俺と三河の二人きり。  花見用に作られた、宴会の動画の試写を見ている最中だった。  動画を製作している俺の会社に、三河が桜の花見用の動画を発注した。完成した動画を二人で見ていただけのはずだったのだが。  この動画は、俺が三河のために制作したものだった。高校時代、俺と三河が旅行に行ったときに撮った、思い出の吉野山の桜の写真を使って。 「やめろ!」  俺は、首を絞められて抜けていく全身の力を、やっとの思いで振り絞り、三河の横っ面をぶん殴った。  我に返った三河は、俺の上に馬乗りになっている自分に気が付き、その目は、俺の首筋に釘付けになった。そして、小刻みに震え出した。  おそらく俺の首には絞められたあざが、くっきりとついていたのだろう。 「ごめん、滝村、俺がやったのか?」 「他に誰がいる?」  俺は三河を押しのけて立ち上がりながら言った。 「お前さ、俺のこと、化け物だと思ってたの?」  俺は、嫌味たらしく聞いてみた。 「お前が鬼に見えた……綺麗で怖かったよ」  三河の言葉に、俺の目からは不覚にも涙がこぼれた。 「俺、帰るわ」  三河に泣き顔を見られないように、俺はフードコートを出た。  お前……今頃になって、わかったのかよ。
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