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クレーム1
最後に会ったのは冬。
それも仕事の都合で顔を見て即さようなら。
そのまま何の音沙汰もなく数々のイベントもすっ飛ばして春ーー
自然消滅したと思っていたところに突然の連絡がきた。
喜びも期待も、かといって悲しみもなく、どちらかというと業務命令に近いしょうがないやりますかという情緒で指定された公園に赴く。
夜空は雲一つなく晴れ渡り、月は金色に輝く。
明日は満月。
つまりこの月は、
「待宵の月」
学生時代に教わった“待宵”という柔らかい響きが好きだ。
「晴」
変わらない呼び方。
でも知ってるトーンよりも少しだけ硬いような?
緊張してる?
いつも通りとは当然いかない空気に(まぁ別れ話だしね)自然と背筋が伸びる。
「恭平さん?」
わかりきっていることを互いに「そうですね」とすり合わせる作業ほど面倒なものはないと思う。
それでも「私も仕事ばかりで何もできなかったから」と提案にサクッと賛同して終わる。
切り出しづらいのか、恭平さんこと佐久 恭平は誰もいない公園の茂みばかり気にしている。
「どうかしました?」
猫ではないでしょうか?
言いたいけど言えない。
「いや。何でもないよ」
「はい…」
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