宮にはじめて参りたるころ

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 この、父親であってもすぐ言い返す気の強さが件の恋人に嫌われたのだが。 「あれは、頭が悪いのが良くなかったのです。今の私を愛してくれる殿方だってきっといるわ」 もっと賢くて、漢字を知っていても嫌がらないような、心の広い人であれば、私の結婚だって上手くいくはずなのだ。  例えば、私が十歳のころに出会った「姫百合の文」の殿方とか。 その年の六月、私は父に連れられて法華経の説法を聞きにとある寺へ出かけていた。 私は初めての外出に大はしゃぎで、窓から外を眺めては、あれは何、それは何、と聞いていた。 いつもは屋敷の中でばかり過ごしているものだから、私には目に映るもの全てが新しく、眩しかった。  外には私たちと同じような物見車がたくさん停まっていて、とても活気に満ちていた。 それまで聞いたことがないほどたくさんの人たちの話し声があちらこちらから聞こえてきて、話に聞く波の音というのはこういうものじゃないかしらと想像した。  窓から顔を出さんばかりに外を覗き込む私を父は優しくたしなめた。 「外が珍しいのはわかるが、顔を出すんじゃないよ。お前は女の子なんだから」 「すみません、お父様」 「さあ、着いたみたいだね。少し知り合いの車に挨拶に行ってくるから、いい子で待っているんだよ」     
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