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『関守に大切に隠された姫百合の露を、私の袖で拭わせてはいただけないでしょうか』
まるで一人前の女性に語りかけるかのような文句に、私は舞い上がってしまった。
「どうしよう、お父様。これって恋文というものかしら」
父は別の意味で大慌てであった。普段関わらないような上流階級の方に娘が文を贈られたのだ。当然の反応だろう。
「まだ成人前の娘だし、お前を慰めるためのお戯れだろう。でも、下手なお返事はできないぞ……」
もちろん私はこんなことは今までなかったから、自分で返事を考えることなどできない。
父が何かしらの歌をこしらえて、それを震える手で書いたような気がする。
あまりにいっぱいいっぱいだったからよく覚えていないのだけれど、よく考えればそんな状態だったら子供の私は満足に字も書けないと思うから、やはり誰かが代筆でもしたのだろう。
私は今もその時の包み紙を大事に持っている。もうその方の顔も覚えてはいないけれど、それを持っていればいつか会えるような気がしてしまうのだ。
思い出に浸っている私を見透かすように父が口を開いた。
「もしかしたら、例の姫百合の方とも宮中で会えるかもしれないよ」
「えっ!」
父の言葉に思わず身を乗り出してしまう。
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