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「かなり立派な家の方だったろう。今頃、宮中のどこかで働いているさ」
そう言われてみればそうだ。
あれだけ大層な家の出身であれば、宮中でもそれなりの地位にいるはずである。
中宮に仕える女房であれば、出会う機会もあるだろう。
幼い頃の想い人との再会とは、運命的である。
私は急に宮仕えも悪くないような気がした。
「私、働きに出ます」
私の言葉に母はあきれた顔をしたが、父は満足そうにうなずいた。
「賢しい女は嫌われるというが、宮中じゃ教養や才能は武器になる。そういう開けた世界を知ることも、お前には必要だと私は思うよ」
「開けた世界……」
「それに、お前は私が決めた相手だとどうも合いそうにない」
父のあきれたようなつぶやきは、もはや私の耳には届いていなかった。ここに書き付けたのは、後から母に聞いたからである。
ふと庭を見ると、梅の木がつぼみを付けている。
「今年はどんな花を咲かせるのかしらね」
母が私の目の先を眺めながら言った。
「きっと素晴らしい花になるよ」
そのまま三人でまだ色の無い木を眺めていた。
ただ一つだけ、今にも咲きそうなほど膨らんだつぼみを私は見逃さなかった。
春はすぐそこにやって来ている。
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