序章

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 凪は元々好奇心旺盛な性格であった。それが知らない土地に来たということで、冒険心によって助長されたのである。  外から店主のような人は見えないが、中は明るい。営業中と思って間違いはなさそうだ。  しかし、気軽に入るのはためらわれる。こういう店の主人は気難しい老人だと相場が決まっているからだ。冷やかしの客など、「はたき」で追い返されてしまうかもしれない。  第一、凪は知らない人間と話すのは得意ではない。就職試験でも、毎回面接やグループディスカッションというものに四苦八苦しているのだ。  他の就活生たちの元気な受け答えや、はじけるような笑顔を見ると気後れしてしまい、自分が言うべきセリフが出てこない。  それと同時に、彼らの能面のように張り付いた笑顔が気味悪く感じられるのだった。  そんな自分が狭い店の中で気難しい店主と会話できるとは思えない。不快にさせて気まずく店を出るのがオチだろう。  店の前で思考を巡らせていると、突然激しい雨が降ってきた。 (うそ、今日雨降るなんて言ってたっけ?)  店の前に申し訳程度にあったひさしが、凪を雨から守っていた。  夕立だろうか、と思っていると凪の視界が真っ白に染まった。  同時に空をびりびりと破いたかのような雷鳴が轟いた。 「きゃあ!」  思わず悲鳴をあげる。どこか近くに落ちたようだ。     
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