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今外に出ていくのは賢明ではない。
凪は意を決して、ガラス張りの引き戸に手をかけた。
木造の戸は立て付けが悪く、つっかえる度に戸もガラスもガタガタと音を立てた。
「いらっしゃい」
格闘の末店に入ると、店主と思われる女性に声をかけられる。張りのある、瑞々しい声だと思った。思わず声のした方を見て、凪は度胆を抜かれた。
声の先にいたのは、小さなおばあさんだった。パッと見、自分の祖母よりも年のように見える。しかし、先ほどの声は老婆のものとは思えない、若々しい響きがあった。
「こ、こんにちは」
やっとのことでそれだけ言うと、店主はにこやかにうなずいた。凪は少しほっとして、店内をぐるりと見回した。
いかにも個人経営らしく、店内は狭かった。店主が座るカウンターを除けば、お客は二人が限界だろう。四方の壁がすべて本棚になっていて、隅の方に脚立が畳んで置いてあった。
本棚を見始めてすぐ、凪は何か変だという気がした。
本棚を眺めても、視線が背表紙をいたずらに滑るだけで、何も目に留まらない。本は確かにそこにあるのに、別の場所に視線を移せば、もうタイトルすら思い出せなくなっているのだ。
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